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第297話 

「実は……好きな人がいるんだ」と遠藤西也は言い、その視線はずっと彼女に注がれていた。

若子は疑問の表情を浮かべ、「本当?好きな人がいるの?それで、その人が誰か分かっているの?」

「彼女は……僕のすぐそばにいるんだ」

松本若子は言葉を失った。

彼女は思わず一歩後退したくなったが、体はその場に固まってしまい、かすかに口元を引きつらせた。

その瞬間、遠藤西也がさらに一歩近づいてきた。

若子は本能的に後ずさりし、

「若子、ひとつお願いがあるんだ」と遠藤西也が言った。

「お願い?」若子は尋ねた。

「どうやったら、女の子に好かれるか教えてもらえないかな?」

「私が教えるの?」若子は驚いて言った。「それなら、花に聞いた方がよっぽど詳しいわよ。私はあまり面白みのない人間で、男性のことも女性のこともよく分からないの」

「あなたなら分かると思うんだ。僕の好きな女の子は、あなたと似た性格をしていてね。だから、花では共感できないかもしれないんだ。花は賑やかな子だから、静かな女の子の気持ちは分からないだろうし」

「そうなの?」若子は少し興味を持って尋ねた。「その女の子って、誰なの?」

「彼女は……あるパーティーで知り合ったんだ。とても静かな雰囲気の子でね。彼女を初めて見た瞬間、心臓がドキドキして止まらなくなった」

若子はふっと肩の力が抜けるのを感じ、安堵の息をついた。

なるほど、彼の好きな人はパーティーで知り合った子なのか。

よかった、自分じゃなかった。

若子が明確に態度を示したことで、遠藤西也もさすがに気を取り直し、リラックスした口調で話を続けた。

「本当に彼女が好きなら、真剣にアプローチしてみるといいと思うわ。あなたみたいな人なら、きっと彼女もあなたの良さに気づいてくれるはず」

実際、遠藤西也のような男性は、本当に珍しい存在だ

。容姿も整っていて、資産もあり、若く、礼儀正しい上に、軽い関係を持つこともない。まさに世にも稀な理想的な男性像であり、彼がその気になれば、蜂が花に群がるように女性たちが彼に引き寄せられるに違いない。

それなのに、どうして彼が少しでも自信を欠くような様子を見せるのか、不思議に思えてならなかった。

まるでIQ180の天才が、自分の頭脳に不安を感じているようなもの。そんなことを思うと、他の普通の人たちはどう感じればいいのだろう
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